2015年度(第20回)レポート ―ドイツ・ミュンヘン

 「ドイツ企業見学会」は、2013年度に続き、二回目の開催となった。目的は、もちろん実際にドイツが得意とする業種に属する企業に直接出かけていくこと!ドイツ企業が大切にする商品哲学を直に見たことは、就業前の学生たちにとって有用な刺激となっただろう。ただし、学びはそれだけではない。在独の日本企業訪問では、日独の労働に対する価値観の違いと、労働者目線で作られているドイツの法律の意味を知り、世界初で今なお存続する社会福祉施設への見学を通して、労働と公共性の概念について学び、さらに強制収容所跡地を見学することで、企業が戦争という産業に加担し、労働者が歴史の歯車となった過去について、そしてその過去に対する反省の可能性について考えることができた。また、現地の日本語学習者と、英語やドイツ語といった学びを異文化コミュニケーションの場で発揮する機会もあり、貴重な体験となった。ドイツの最先端の企業を見つつ、同時にその社会的、歴史的背景への視野を押し広げる本見学会は、外国語学習という学びをより立体的で多面的に構成するために必須のプログラムといっても過言ではない。社会へ、そして世界へ羽ばたき、国際交流の現場で活躍していきたいという高いモチベーションを持つ学生たちにとっては、凝縮した学びの種がつまっている。今後も同様のプログラムが企画されることを切に祈っている。

引率者 小松原由理(外国語学部 国際文化交流学科)(文責)
    ステファン・ブッヘンベルゲル(外国語学部 国際文化交流学科)

日程

1月30日(土) 羽田発 → ミュンヘン着→ホテルへ移動後、合同夕食会
1月31日(日) H.I.Sミュンヘン(ANAフランクフルト)訪問
2月1日(月) BMWミュンヘン訪問
※現地日本語学習者との交流夕食会
2月2日(火) バイエルン・テレビ局訪問
午前:テレビ局 午後:ラジオ局、局員との懇親会
2月3日(水) リーゲレ・ビール訪問(アウグスブルク)
※世界初社会福祉施設フッガライ訪問)
2月4日(木) シュタイフ社工場見学(ギンゲン)
ローテンブルク市内見学 ⇒合同夕食会
2月5日(金) KZメモリアル ダッハウ訪問
ミュンヘン 発 
2月6日(土) 羽田着

参加学生の報告書から

 今回、私は1月30日から2月5日までドイツ・ミュンヘンにて行われた海外企業見学に参加した。ミュンヘンはドイツのバイエルン州最大の都市であり、ベルリン・ハンブルクに次いで3番目に大きい。日本との時差は8時間ある。海外企業見学ではこのミュンヘンを中心にいくつかの企業を訪問し、様々なお話を聞いたり見て回ったりと色々な体験をすることができた。

1日目は羽田空港に集合した後12時40分発の便に搭乗、ミュンヘンには現地時間で17時前に到着した。ミュンヘン空港から電車に乗ってマリティムホテルミュンヘンへ。この日はもう夜になってしまったので今回の参加メンバーで夕食を食べに行った。本場ドイツのビールとソーセージを味わうことができ、また他のメンバーのことを知るいい機会にもなった。



2日目からは早速企業への訪問が始まった。1番最初の企業はANAとH.I.S。H.I.Sのミュンヘン支店の梶原さん、そしてANAフランクフルト支店の野口さんがいらっしゃってお話を聞いた。まずはドイツのH.I.Sの基本情報について。ツアーデスクを含めるとドイツ国内には4つの店舗があり、その合計スタッフ数は約25人。それぞれ担当する業務は異なるが1番大きな店舗がフランクフルト支店で、アウトバウンド・インバウンド・経理部門・管理部門・IT関係と多くの業務がある。今回私たちが訪れたミュンヘン支店はドイツ発のお客様を相手にするアウトバウンドを担当する支店だった。主な業務は航空券・ホテル・オプショナルツアー・パッケージツアーの手配から、レンタカー・クルーズの手配、鉄道チケットや旅行保険などの旅行に関係のある全てのものの手配だ。梶原さんによれば、ミュンヘン支店を利用するお客様の9割が日本人で、まだドイツでの知名度は低いそうだ。日本とドイツのH.I.Sで働く際の違いは様々あったが、特に休暇の取り方の違いが印象的だった。日本では中々とりにくい有給休暇も、ドイツでは全社員が毎年25日必ず消化しなくてはならない。未消化分は会社が買い取る上、さらに育児休暇も3年間と法律で決まっているなど手厚いと感じた。実際、梶原さんも上司自らきちんと有給休暇分休みを取るとおっしゃっていて、あっても完全な消化が難しい日本とはまるで違うと思った。逆に日本では交通費支給や住宅手当、家族手当があるがドイツでは交通費支給のみであったり、退職金がないなど、意外な点も多くみられた。そして次にANAの海外支店について野口さんにお話を伺った。野口さんはフランクフルト支店にお勤めだが、ANAもH.I.S同様ドイツ内に拠点がいくつかある。総務や営業を担当する市内の支店は2つ、そして旅客や貨物の対応を専門とする空港所が3つの計5つだ。その中でも野口さんは主に日系企業へのセールスやイベントのプロモーション活動など営業を担当されている。ANAを多く利用してもらえるように様々な企業を訪問していらっしゃった。また、海外勤務にしても駐在員と現地採用の2つの方法があることやその違いも教えていただいた。どちらの企業も、採用基準はやはり英語力が必要であるが、それと同時にコミュニケーション能力が高いことは重要であるということだった。わたしはこれらの観光業関連の仕事に就けたらと思っているため、今回のお話はとても身になるものであった。

 H.I.S・ANAさんへの訪問を終えた後は、集合しお昼を食べて市内の見学へ。ミュンヘンの新市庁舎やマリエン広場など初めて見る光景に目が奪われた。ちょうど私たちがドイツを訪れた時期はカーニバルの始まる頃で、道を歩いていた際にカーニバルの前夜祭のような一行と出会うなど面白い体験をすることができた。アルテ・ピナコテーク、ノイエ・ピナコテーク、ピナコテーク・デア・モデルネという3つの有名な美術館を見学することもでき、世界的に有名なゴッホのひまわりやラファエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品も見られたのはとてもよい経験だと思う。


 3日目はBMWミュンヘンを訪問した。日本でも人気の高い外国車であり、ドイツを代表する会社でもあるので今回見学することができたのはよかったと思う。BMWに関するビデオを見せていただいたり、実際に車を作っている工場内を歩いて回ったりと色々な角度からBMWのことを知る機会となった上に、車が展示されていて見たり触ったりできたので面白かった。また、このBMWの会社近くには1972年のミュンヘンオリンピックが開催された際に使用されたオリンピック公園があり、BMW見学終了後にはオリンピック塔に上ってミュンヘン市内からもっと遠くまでを見られた。 私たちがドイツを訪れていたときはあまり天気がすぐれない日が多かったが、この時は奇跡的に晴れ間が見え、綺麗に見ることができたので嬉しかった。そしてこの日の夜は、ドイツの語学学校HANABIの学生の数名と夕食・交流会を行って、新たな出会いがあった。皆さん日本語がお上手で、わたしがドイツ語を話すのとはまるで違うレベルだったため、自分の出来なさをひしひしと感じた夜でもある。それぞれ色々な話をして楽しい時間にすることができたと思う。

 4日目はバイエルン放送局を訪問した。まずはテレビ局へ行き、実際に使われているスタジオを見学したり番組のプロデューサーや監督が操作する部屋を見て回った。それだけでなく番組で使用する衣装がたくさんある部屋や大道具、小道具が収納されている場所も見学するなど普段は見られないような様々なところを見させていただいた。大道具などを手作りしていらっしゃるのがとても印象に残っている。テレビ局の次はラジオ局へ行き、同じようにスタジオやオーケストラの収録をするホールなどの見学をした。面白く、特に興味を持ったのはラジオドラマなどで使われる効果音を身近なものやちょっとした工夫で作っているところである。似せた音をこうやって作っていたのか、という驚きがあった。

 5日目はロマンティック街道最古の歴史を持つアウグスブルクに行き、リーゲレ・ビールの工場を訪問した。ミュンヘンといえばやはりビールということで、ドイツの美味しいビールをどのように製造しているのか一つ一つ回って見学し最後に出来立てを少しだけ試飲させてもらうなど、改めてドイツビールの魅力を感じることができた。

市庁舎など少しアウグスブルク市内を見学した後は世界初の福祉住宅、フッガライへ。ガイドの方が日にちを1ヶ月勘違いしていて出だしが遅れるというハプニングがあったものの、英語で詳しくお話を聞きながら回ることができた。とても安い家賃だが思っていたよりも広い部屋で自由に使用できるようで驚いた。部屋の中から玄関のドアを開けることができるちょっとした装置が印象的だった。


 6日目は早起きしてバスでギーンゲンへ。テディベアを世界で初めて作ったマルガレーテ・シュタイフ工場を訪問。ぬいぐるみを作っている会社だけあって、歴史を伝える博物館がアトラクションのようでとても可愛く、メンバー全員が幸せな気持ちになったのは間違いないと思う。見学後に1人欠けることなくぬいぐるみを家に連れて帰ったのがとても面白かったが、正解だったと感じている。シュタイフ工場の後はバスでローテンブルクへ向かった。ローテンブルクはメルヘンチックでまるでおとぎの国に迷い込んだかのような雰囲気だった。日本人観光客が多いのか、中世犯罪博物館には日本語の説明文があちこちにあったのが気になった。中世に使われていた様々な拷問器具や、死刑執行者が羽織っていたマントなどもあり歴史を感じた。ローテンブルクからミュンヘンへ帰ってきてから、全員でこの企業見学最後の夕食を食べに行き、各々がこの6日間を振り返りながら色々な話をして過ごした。


 最終日はダッハウを訪れた。以前からドイツの歴史に興味があったためこの機会に強制収容所へ行くことができてよかったと思っている。日本人のガイドさんが詳しく分かりやすく説明してくださり、実際に使われていた施設を見て回れたのでさらにこの事実に関して色々知りたいという気持ちが高まった。ガス室を見たときは胸が詰まる思いで、改めてこの事実と戦争の悲惨さを痛感させられた。大変貴重な時間になったと考えている。

 ダッハウを後にしてミュンヘンのホテルに帰ってきてからは、最後の市街見学をして空港へ向かった。そして最後に驚いたのは、帰りの飛行機が最初に訪問したANAで少し話を聞いていたSTARWARSジェットだったことである。あまり飛んでいないという話であった上、まさか乗ることができるとは考えていなかったために写真を撮ったりして楽しんだ。

この海外企業見学では、様々な職種の仕事や海外で働くことのメリットデメリットなど色々なことを学ぶことができたことはもちろん、さらに同学年や後輩など別の学年の人とも仲良くなる機会にもなりとてもいい経験になった。これからもこの海外企業見学を活かして大学生活を過ごすことができたらと思う。

国際文化交流学科  佐野栄美

その他、参加学生からのコメント

  • 海外で働くことについて深く知れ、更に興味を持つきっかけになった企業見学でした。それと同時に観光を通してドイツ文化にも触れる事が出来ました。間違いなく自分の将来にプラスになる話を聞くことができ、とても充実した1週間でした。[2年生]
  • 今回の企業見学では企業の方からお話を伺うことはもちろん、私たちが知っておかなければいけないドイツの悲惨な歴史なども知ることができました。またドイツで日本語を学ぶ学生とも話す機会があり、とても貴重な体験ができたと思います。企業の方々から聞いたお話は普段の大学生活では知ることのできないことばかりだったので今後の就職活動に活かしていきたいです。企業を知るだけではなく、ドイツという国についても知ることができたので参加して本当に良かったと思います。[2年生]
  • 今回の海外企業見学は僕にとって本当に沢山の事を得られたとても充実した1週間でした。また先生や友達が周りに居てくれたので安心して生活が送る事ができました。多くの企業を見学させて頂いた中で現地の人達との交流はすごく貴重な経験でした。またダッハウでは後世に残すべき歴史をこの目で見た事で新たに勉強への意欲も出てきたと感じています。[1年生]
  • ドイツ企業見学では、普段見ることの出来ない工場の中身を見ることができたし、外国人との交流の機会も設けられていたのでとてもいい刺激になりました。またダッハウやハプスブルグ、拷問美術館などでドイツの歴史を学ぶことができてとても有意義な時間を過ごせたと思います。[2年生]
  • 1週間ミュンヘンに滞在しましたが、街全体が日本とは全く違い、とても歴史あるものを大切にしていると感じました。また、ドイツで日本語を学んでいる方達との交流会では日本に対するイメージやお互いの国の好きな食べ物、言葉などを聞きました。コミュニケーションを取る際、わからない日本語があれば教えたりもしました。ドイツで日本語を学んでいる人との交流は、なかなかできないことだと思うので貴重な体験ができました。しかし、私が全くドイツ語で話せなかったので、もう少しドイツ語でも会話ができれば良かったなと思いました。[3年生]
  • 今回ドイツ企業見学に参加して実際にANAやH.I.S、BMWなどの企業の方にお話聞いたことで、自分の将来の職業について改めて考える機会になりました。また、ドイツで日本語を学ぶ皆さんと交流をしたりダッハウの強制収容所を訪れて歴史や当時の社会を知るなど、新たな発見や勉強になることも多くあり、とてもよい経験ができたと感じています。[2年生]
  • ドイツ語に慣れたい方はおすすめです。企業見学のように1週間だけでも耳がかなり慣れます。またBMWの工場等にもお邪魔させていただいたのですが、こういう部分では工学部の方も大変おすすめです。全行程をほぼ見られるので結構楽しめるかと思われます。[1年生]
  • 海外企業見学では、ドイツの場合BMWの工場内部やバイエルン放送局の見学等、普通の旅行やツアーではなかなかできないような海外の「社会科見学」を体験することができました。H.I.S.とANAの海外勤務社員の方からのお話では、仕事内容や海外生活について、ドイツと日本での採用や待遇の違いについて説明していただき、海外では良い条件を求めて転職することが珍しくなく、休暇の取得や終業時間がよりきっちりしているという印象を受けました。日本と海外の違いを知った上で将来どうするのか、それだけでなく今の日本社会が抱える問題について等、様々な面を改めて考えさせられました。[3年生]
  • ドイツの企業見学をさせていただいて印象に残っているのは、現地で働いている日本人スタッフの方々です。日本との違いやご自身の経験したこと、感じたことなど、実際に経験したからこそのお話は、現実味を持って伺うことができました。今回の滞在でたくさんのことを体験し、非常に楽しい時間を過ごすことができましたが、同時に自分のドイツ語の勉強不足を実感しました。今後の学習意欲にも繋がる良い経験を出来たと思います。[3年生]
  • 企業見学を通して、ドイツの労働環境や文化を学ぶことができました。日本とドイツの労働環境の違いが大きな発見です。また、日常生活でも発見や学びはたくさんありました。[2年生]
  • ミュンヘンでも英語は通じるし困った時には意外と街の人が助けてくれることに温かみを感じた。[2年生]