2018年度(第23回)レポート ロシア・モスクワ

ロシア企業見学は2010年以来8年ぶりとなる。ロシアは、日本の45倍の国土と、約1億4千万の人口を有する大国であるが、日本からの企業等の進出がそれほど多いわけではない。しかし、大規模な市場として、あるいは資源大国として、または宇宙開発をはじめとする技術国として、日本が進出する余地はまだまだ存在するといえる。

今回は、ソヴィエト時代からロシアとの貿易をあつかっている大陸貿易、ロシアや旧ソ連諸国に進出する日本企業に情報を提供するロシアNIS貿易会(ROTOBO)、重工業メーカーとしてロシアに進出している川崎重工にご協力いただき、それぞれのモスクワ事務所で駐在員の方々にそれぞれいろいろと詳しいお話を伺うことができた。また、モスクワの日本大使館も訪問させていただいた。ちょうど同時期にウラジオストクで日本・ロシア・中国の首脳が出席する東方経済フォーラム開催があり、多くの館員の方々が出はらっている状況にもかかわらず、快く受け入れていただいた。訪問を受け入れていただき、お話を伺わせたいただいた各所には心より御礼申し上げる。

また、創設からちょうど今年で200年を迎えるロシア科学アカデミー東洋学研究所も訪問させていただき、アジアに接するヨーロッパとしてロシアのアジア研究の奥深さを垣間見ることもできた(この研究所の研究分野は実際にはアジアを越えた領域に広がっている)。さらに、ロシア国立人文大学と総合大学「高等経済学院」で日本語を学ぶ学生さんとの交流会も行うことができた。ロシアの学生さんたちは必ずしも同年代の日本人と会う機会が多いわけではないので、相手方にも喜んでもらえたようである。 引率:堤正典(外国語学部 国際文化交流学科)

プログラムの概要

前回2010年当時に比べ、ロシアの通貨ルーブルは対ドル・対円で半分ほどになったとはいえ、ロシアへの夏場の旅行はそう安いものではない。航空運賃の安い冬に実施するということも考えたが、2017年から2018年にかけての冬が例年になく厳しく、スムーズで安全な旅にするには夏の休暇シーズンが終わった9月がよいと考えた。前回のロシア企業見学では、マイクロバスのチャーターができたが、今回は地下鉄や路線バスなどの公共交通機関と徒歩での移動であった。現在ではモスクワ市内の地下鉄・路線バス等の公共交通機関共通のカードが各種あり、以前に比べて利用しやすくなっている。なお、ロシアでは快晴の天気が続く秋を「黄金の秋」と呼ぶが、今回はそこまではいかなくとも、おおむね暑くもなく寒くもなく、雨もほとんどない天候に恵まれたことは、公共交通機関と徒歩での移動において幸いであった。

企業訪問を行う午前中を中心に現地ガイドをつけてもらった。モスクワ地下鉄は、東京に次ぐ世界第二の地下鉄網と言われ、各駅の内装はそれぞれに趣向を凝らしているので、モスクワのひとつの名物であるが、乗りこなすにはけっこう複雑である。さらに路線バスの利用となるとさらに膨大の路線数が存在し、どのバスに乗車すべきかはなかなか頭を悩ます。それに加え、引率教員は大学や研究機関ならば訪れた経験があっても、日本企業とのモスクワ事務所にうかがうことはめったにない。したがって、現地ガイドの存在は、時間通りに企業を訪問するうえで非常に有益であった(逆に、現地ガイドなしで訪問した日本大使館は、引率教員が地下鉄の出口を間違え、しばらくの間、本来の方向とは反対に進むという事態に陥った。午後もガイドをつけてもらうべきだったかもしれない)。

ロシアでは2018年6月から7月にかけてFIFAワールドカップが開催され、モスクワでは2つのスタジアムが会場となり、とくに多くの観戦客が訪れたわけだか、大きな問題もなく終えることができ、それだけ外国からの訪問者を受け入れやすいようになってきているようだ。企業等の訪問の間にはモスクワ市内のいくつかの観光スポットにも足を運ぶことができたが、9月のモスクワにおいても、どこも多くの外国人観光客が大勢いた。

朝食以外はホテルの外で食事をとったわけで、なるべく学生向けに安価なところを利用したが、ロシア料理の他に、中央アジア、グルジアの料理も食することができ、モスクワ大学近くでは、日本から進出しているうどん店を訪れることもできた。また、ホテル近くのスーパーマーケットで買い物をしたり、地下鉄の他に2016年開業した地上の線路を走るモスクワ都心環状線(MCC)に乗車したりなどは、モスクワが日本や他のヨーロッパの国々とさほど変わらない部分の体験となったかもしれない。また、モスクワ滞在最終日の午前中は、ホテル近くのヴェルニサージュ市場に出かけた。この市場は、特にロシアの土産物が安く変えることで知られており、ちょうど日本からのお客さんを連れてきたという大陸貿易の方に遭遇するというハプニングもあった。

参加学生たちは、ロシアで働く日本企業等の職員さんたちのお話とともに、モスクワの様々な光景も胸に刻み、帰国できたようである。

日程

9/11(火) 成田空港発、モスクワ・ドモジェドヴォ空港着、アエロエクスプレス・地下鉄でホテルに移動
9/12(水) (地下鉄で移動)大陸貿易モスクワ事務所訪問、クレムリン・赤の広場周辺散策、ロシア科学アカデミー東洋学研究所訪問、ロシア国立人文大学の教員・学生との交流会、モスクワ動物園見学
9/13(木) (地下鉄・路線バスで移動)ロシアNIS貿易会モスクワ事務所訪問、モスクワ大学周辺散策から雀が丘展望台へ、救世主キリスト大聖堂見学、アルバート通り散策、総合大学「高等経済学院」の教員・学生との交流会
9/14(金) (モスクワ都心環状線・路線バス・地下鉄で移動)川崎重工モスクワ事務所訪問、モスクワシティー(超高層ビル群)散策、クレムリン見学、在ロシア・日本国大使館訪問、赤の広場(ライトアップ)周辺散策
9/15(土) ヴェルニサージュ市場散策、地下鉄・アエロエクスプレスで空港へ移動、モスクワ・ドモジェドヴォ空港発
9/16(日) 成田空港着

堤 正典

参加学生の報告書から(抜粋)

現地の日本企業3社と在モスクワ日本大使館を訪問させて頂いた。ロシアとは主に林業の貿易をする商社、日本の中小企業などのロシア・NIS諸国への進出を手助けする一般社団法人、ロシアでは先端医療ロボットや発電所の部品などを輸出する日本のモノづくりを代表する会社の3社を訪問し、それぞれが現地駐在員として一生懸命に頑張っている姿は、輝いて見え、憧れとなった。ところで、モスクワの街中を走る車はベンツ、BMW、ヒュンダイ、KIA自動車が多く、日本車はトヨタ、ホンダが少しといった感じであり、そこまで日本製の商機がないのではないかと思ってしまった。それでも今回伺った企業では、「細々でも少しずつでも諦めないチャレンジ精神で継続すれば、成果がついてくる」と、大変貴重な意見を頂いた。また、一部のロシア人にとっては、「日本製は高品質であるから、もっとロシアに入ってきてほしい」という意見もあり、心強くも、高コストではないのかと懸念しており、オランダ、ドイツなどは移動コストが日本に比べ安く済み、韓国は日本よりも低価格でロシアの消費者にとっては買い求めやすいから、日本企業のロシア市場の参入には高い壁があるように思える。在モスクワ日本大使館では、現役の参事官が対応して下さり、外務省職員の業務説明、日露青年交流や、文化・芸術などの交流事業についてお話を伺った。何より東方経済フォーラムで忙しい時期だったにも関わらず、丁寧に対応して下さった。海外企業見学前には、元主任分析官の佐藤優氏の著作を読んでおり、随所に在モスクワ日本大使館やロシア事情について言及しており、興味を持っていた。実際に、会食する会場などセキュリティ上見ることのできる場所を案内してもらい、実際の会食の姿などを勝手に想像してしまった。対応してくださった参事官は、当初はロシア語に苦戦しながらも、国民の税金を使ってロシア語を勉強しているのだというプレッシャーと戦い、今ではお仕事にやりがいを感じているとのことで、充実した姿を拝見した。日ロ間には平和条約締結に関する問題、北方四島を巡る領土問題など難題が山積している。将来的には、解決されなければならない問題だが、双方の立場は食い違うこともあり、双方にとってのベターな落としどころを探さなければならない。私は、これらの問題に関心を寄せるともに、今後も研究していきたいと考えている。将来的には、もう一度モスクワに留学で訪れたいと思う。また、今回の食事会で連絡先を交換したロシア人大学生とは、その後も定期的に連絡を取っており、今後も大切な友として信頼関係を築き上げていきたい。そして是非、日本を訪れてほしいと思う。

今回のロシア企業見学を通して、今まで全くと言っていいほど知らなかったロシアという国を様々な視点から見て、体験し多くのことを学ぶことができました。全てが日本とは違っていて、魅力的に感じることも多かったですが、歴史的、文化的な背景が異なるためにいろんな場面で動揺することも多々ありました。改めて異文化を学ぶことが、難しくもあり、慎重を期すということを感じました。しかし、現地に行ってしか感じられないリアルな現状や出来事を肌で体感し、新たな知識を得ることは、重要な経験として、今後物事に対する想像の幅を広げてくれると思います。また、ロシアで活躍している日本の方達のお話を聞いて、普段自分の知ることのない所で、日本の技術や文化をロシアに広げている人達がいて、そうした一つ一つの取り組みが、日本という国を世界から認めてもらうための活力になっているのだと思いました。ロシア企業見学を終えてからは、ロシアに限らずもっと広い世界全体を体感し、それぞれの国と日本はどう異なるのかを考察したり、その国にしかないものを学び、自分自身の視野や世界観をより豊かにしたいと思いました。

ロシアと日本の2国間で活躍する企業の見学を経て、私はこれまで以上に海外で働くことの大変さや素晴らしさを感じた。また、それと同時に両国の関係性や経済状況についても知ることができた。そしてロシアの歴史や文化についても学ぶことができ、非常に有意義な企業見学となった。

今回の企業見学では、ロシアを舞台に活躍する企業を訪れ、実際にロシアで働くということや、外国語を使って仕事をすることに対する率直な気持ちや大変さ、魅力などを伺うことができた。また、市内見学によって日本とは大きく異なる歴史や文化を実際に肌で感じ、学ぶことができた。ロシアに対するイメージは渡航前と後ではすっかり変わった。実際に見て、体験した上で考えることの大切さを改めて感じた。企業見学を経て、人間的にも成長することができ、とても実りのある5日間だった。今後も視野を広げていき、海外で活躍できる人間になりたい。

⽂化についても、⽇本にいては知り得ない様々なことが学べた。特に印象的だったのが現地のロシア⼈学⽣との交流会だった。ロシア⼈は笑わないと⽇本では⾔われ、冷たい印象があると思うが、実際は仲良くなろうとすると笑顔で会話してくれ、仲良くなった⼀⼈の⼥⼦学⽣とモスクワの動物園に⾏ったりととてもフレンドリーに接してくれて、⼼優しい⼈たちだと感じた。また男性は⼥性と⼦供に優しく、私がメトロでスーツケースを持って階段を上っていると必ず男性が⼿伝ってくれたり、電⾞内で席を譲ってもらったりと、思いやりのあるあたたかい国であるという印象を受けた。ただ、飲⾷店での接客は冷たく、⼊稿審査やホテルも素っ気なくセキュリティが厳しかったので、そこには内向的で他者を受け⼊れないというロシアの国⺠性が⾒て取れた。そして他にもボルシチやピローグなどロシアの郷⼟料理を⾷べることができたり、アリョンカチョコやマトリョーシカ、ヴェルニサージュではロシア帽なども購⼊できたので、⽂化を体験するという⾯でも⾮常に良い経験になった。

今回の企業⾒学では、私が中学⽣の頃から思い描いていた「⽇本の良さを海外に伝える」という職業の、⽇本企業の海外⽀局での仕事について多くの⾒聞を得ることができた。またネイティブのロシア⼈と会話し仲良くなったことで、ロシア語や英語の語学⼒向上の⼤きなやる気に繋がったし、実際に現地に赴くことでしか味わえない多くの体験を通してさらにロシアを好きになり、ますますロシアと⽇本に関する職業に就きたいと感じた。今回得た経験を、今後の語学および⽂化の学習に活かしていきたい。